コルネリアが恋に自覚をして想いを伝えた少し前、ルセック家では大変な騒動が起こっていた。

 ルセック伯爵の不貞によって、伯爵夫人は怒り狂って実家に帰ったあと、自分の夫の不倫を父親に訴えた。
 娘の訴えを聞き、義理の息子に対して大きな怒りを覚えた彼は、ルセック邸に乗り込んだのだ。

「どういうことだね、ビストくんっ!!」
「お、お義父さんっ!!」
「娘から聞いたよ、不倫して娘を悲しませるとはどういう領分なんだっ!!!!」
「いや、その、えっと……」

 あまりの形相と彼の立場からして、恐ろしすぎてルセック伯爵はその場にへたり込む。
 それも無理ない。
 ルセック伯爵夫人の父親は、鬼のように恐ろしく筋肉隆々の体つきをしており、さらに気性も荒くて有名だった。
 巷では彼の赤い目の色と性格から、『鉄血伯爵』と呼ばれているほどで、彼の怒りを買ったものは等しく生気を失うほどになる。
 そんな彼の娘と結婚したわけだが、同じ伯爵家格であっても彼女の家のほうが上であった。