渡された給金を眺めながら、ミアは彼女がこの給金のために売り払ってきたであろうもの、そしてそれが地下室にあって屋敷の主人たちがテレーゼの20歳の誕生日に渡してほしいと遺言書で書いていたものだと気づいた。
 亡くなった主人たちと、そしてそれを近くでワインを好んで飲む年配の男性に売ってきたテレーゼの思いを受け取り、唇を噛みしめる。

「本当はみんなと一緒にいたいけど、でも、私はみんなのことを雇うお金がない」
「私は、私はテレーゼ様と一緒ならお金がなくてもっ!」

 ミアがそう叫ぶが、テレーゼは首を静かに振って微笑んだ。

「あなたたちにまで死んでほしくない」
「──っ!!」
「だから、ここでお別れ。私は大丈夫だから、必ず生きるから。だから、お願い、みんなもどうか生きて」

 そう言い残してテレーゼはゆっくりと夜の闇に消えていった──


◇◆◇



 テレーゼはふとヴァイス公爵で与えられている自室で窓の外に輝く月を眺めながら昔を思い出す。

「あれから、もう7年ですね……」

 没落して一人となったテレーゼは屋敷を後にしたのち、何も食べるものも飲むものもなくひたすらに数日彷徨い続けた。