テレーゼの小さな涙声が地下室に響き渡り、わずかに頬を流れた雫がワインへとポタリと落ちる。
 彼女は少しの間涙を流したあと、ドレスの袖で目をこすると、ワインを大事に胸の前に抱えて走り出した。



「テレーゼ様っ?!」

 メイドのミアがテレーゼを見つけた時には、彼女は雨の降りしきる外から走って帰ってきたところであり、その綺麗なドレスは泥にまみれていた。
 その手には何かを握り締めており、息をはぁはぁと大きく吐きながら肩を揺らす。
 いつの間にかミアの声を聞きつけて屋敷にいた使用人が集まってきており、テレーゼを取り囲み、各々心配の声を寄せる。

 テレーゼは息を整えて背筋を伸ばすと、残っていた使用人三人の手に握り締めていた”それ”を三等分して手渡す。

「テレーゼ様、これは……?」
「ごめんなさい。本当はみんなの生活を保障できるだけのお給金を渡したいのだけれど、今私に渡せるのはそれだけなの」