「それ、私に北方の領地に行くって言ってたのに、南方の領地に行ってたそうじゃない。しかも、その南方の領地ってその子爵令嬢の親の領地でしょ?! 避暑地で有名でたくさん泊まるところがあるそうね?」
「お前の妄想はいい、私は北方に仕事に行っていたんだぞ?! なんで疑われなきゃいけない?!」

 ルセック伯爵は疑われることが気にくわないといった様子で夫人を睨みつけながら威嚇する。
 そんな夫の様子に少しも臆さずに真っ向から睨み返すと、握り締めていたルビーのついたイヤリングを伯爵につきつける。

「これ、何かわかるわよね?」
「──っ!!」

 こんな時に男は弱い生き物で、咄嗟に予想外のものを出されるとうまく嘘がつけなくなる。
 夫人はもちろんその一瞬の動揺を見逃さず、ルセック伯爵の座っているほうへとすたすたと回り込み、椅子に座って動けなくなっている彼の眼前すれすれにそのルビーのイヤリングをつきつけた。

「あなた昔から嘘が下手ね。私はこんなイヤリング持ってないし、プレゼントもされたことないわ。これ、どこにあったか知ってる?」
「…………」