「間違ってたらごめんなさい、西園寺さんは僕が好きで告白したんですよね? しかも断れないって、そんなに僕のことがいいんですか?」
「は? 何を勘違いしているのよ。私はね、アナタのことなんて好きでもなんでもないんですからっ」

 好きでもないのに告白される。
 一生で一度あるかの体験が誠也を襲う。
 頭の中は完全に混乱し思考が停止してしまう。

 普通、好きでもない人に告白するものなのか?
 答えはノー。ありえるとしたら罰ゲームくらいだ。
 まったくもって理解不能な行動をする瑞希に、思考が回復した誠也は率直な質問をした。

「好きでもないのに告白って、なんかの罰ゲームとかでしょうか?」
「何言ってるのよ、そんなわけないでしょ。私がアナタに告白したのはね、告白されるのがうんざりだからよっ」

 なぜ怒られないといけないのか。
 腑に落ちない気がするも、つっこんだら負けるのは確か。
 誠也は静かに瑞希の話に耳を傾けた。

「だ、か、ら、偽りの恋人を作れば言いよる男はいなくなるでしょ? それに、アナタみたいな陰キャなら女性にも興味なさそうだし」
「つまり僕に恋人のフリをしろってことですか?」
「そうよ。それにね、偽りとはいえ、この私の恋人役になれるんだからありがたく思いなさいね」

 断りたい、本気で断りたいと誠也は思っていた。
 偽りでも氷姫の恋人になれば、平穏な高校生活が送れなくなる。

 それだけはなんとしてでも避けたい。強気な態度で断るか、低姿勢で断るか悩んでいると、瑞希から致命的なひと言が放たれる。

「もし、どうしても断るというのなら──このノートに書かれている内容を校内放送で流すわよ?」

 カバンから取り出した一冊のノート。
 どこにでもありそうなノートだが、誠也には見覚えがあった。
 表紙に書かれた『愛のメモリアル』という文字。それは中学の頃の黒歴史であり、愛の妄想を詩のように書いたもの。

 たがそんな危険物は処理したはず。
 確かに資源ごみとして出した記憶がある。
 それなのに──なぜ瑞希が持っているのか不思議で仕方がなかった。

「どうしてそれを持ってるんですか!?」
「そんなこと教えるわけないじゃない。そ、れ、で、私の恋人になるの? ならないの?」

 黒歴史を公開されれば平穏な高校生活は送れなくなる。
 こうなった以上、選択肢はひとつしかなかった。

「……分かりましたよ。西園寺さんの恋人になりますよ」

 不本意ながらも瑞希の恋人となった誠也。
 苦笑いするしかなく、これで平穏な高校生活ともお別れとなった。