「んー、瑞希が朝言いかけたことってなんだろ。とりあえず昼休みにでも聞いてみるかな」

 瑞希とはクラスが違い、わざわざ会いにいくのもどこか照れくさい。
 屋上で密会するお昼休みなら、誰の視線も気にならない。
 誠也は焦る気持ちを抑えながら、時間が来るのを静かに待った。


 待ちに待ったお昼休み──。
 胸に引っかかっている朝の出来事をやっと聞けると、誠也は意気揚々と屋上へと向かう。鉄のトビラを開け、瑞希が来るのを待とうしていたのだが──。

「遅いじゃないの。この私を待たせるなんて、いい身分ですわね」

 ほぼ同じ時間に来たはずなのに、そこには瑞希がすでに待っていた。
 久しぶりに見る氷姫の姿。誠也はほんの少しだけ嬉しさを感じてしまう。

「ご、ごめん、これでも急いだんだよ」
「まっ、いいわ。それでね、その……」

 突然外れる氷姫の仮面。
 紅潮させた顔で何かを言いたげな表情を見せる。
 朝の続き──誠也はきっとそうだと確信した。

 決して遠くない二人の距離。
 手を伸ばせばすぐ届くほどの距離。
 それなのに見えない何かが声を遮断してしまう。見つめ合うこと数秒、二人の時間がようやく動き出す。

「あーんってのを誠也にやってあげようかなって。か、勘違いしないでねっ。これは本物の恋人だと思わせるためなんだから」
「それなら人が多いところの方が効果的じゃ……」

 誠也の的確なツッコミが瑞希を襲う。
 わざわざ密会現場で、しかも人目の付きにくい場所でやるなど、本当に意味があるのだろうか?
 噂を広めるのが目的なら、教室という人目の多い場所の方が効果的なはず。

 なぜそのような簡単なことが出来ないのか。
 本物ではなく偽物の恋人だから、という理由だからなのか。
 違う、そうではない。瑞希がこの場所を選んだ理由は──。