「キスって聞いたときは驚きましたけど……。そうよ、私と付き合ってるのに、他の女とキスしたとか噂になるのを恐れたんだわ。うん、だから西園寺さんを屋上に呼び出して話をしたんですから」

 屋上での一件は瑞希らしからなかった。
 幼なじみならキスは当然のこと──それが心の中で引っかかり、イライラの原因を作り出しているに違いない。

 原因が分かったのなら対処すればいいだけ。
 ではその対処とはどうすれば……。

「キス……。で、でも、キスだなんて恥ずかしすぎます。だって本当の恋人でもないのに……」

 誠也とキスをする仲だと噂になればいい。
 しかしそれは、瑞希にとってかなりハードルが高い。
 元々男嫌いな上に、自分の体に相手を触れさせるのだから。しかも手ではなく唇を……。

 無理、そんなことは絶対無理に決まっている。
 いくらイライラを解消するためとはいえ、そんな恥ずかしすぎること出来るわけがない。

「うぅ……。一体どうすれば……。あっ、アメリカよ、アメリカみたいな感じで挨拶みたいなキスをして、それを脚色すればいいのよ。それなら──まだ耐えられるかな」

 頬っぺたに軽くキスをする。
 それなら自分の唇でなくていいのだから、そこまで嫌悪感は湧かないはず。既成事実──それさえ作れば、あの幼なじみとのキスが噂になったとしても、浮気だの偽りだのと疑われる心配はない。

 これで問題はスッキリ解決。
 あとは明日誠也にお願いするだけ。
 瑞希は晴れ渡るような心で夢の中へ旅立っていった。