「瑠香ー、西園寺さんに何かしたのー? 凄い圧だったけど」
「心当たりが全然ないよ」
「不安だったら私も一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫だよ。多分……」

 氷姫とは呼ばれてるものの、陰険だったり意地悪な性格ではない。
 単にクールなだけで、暴力的なことは一切しないのが瑞希だ。

 なんであまり接点のない自分と話があるのか。
 分からない、勉強や美貌だって瑞希の方が遥か上にいる。
 趣味だっておそらく違うはずだし、共通の話題などあるはずがない。

 それなのに、瑞希から話があるというのが瑠香には理解できなかった。


 約束の昼休み、瑠香は瑞希に言われた通りに屋上へ。
 そこで待っていたのは──。

「来てくれて嬉しいわ。もしかしたら来ないかもって思ってたから……」
「話があるって言ってましたし、約束を破るなんて私には出来ませんよ」

 瑞希から話しかけられたのは初めてで、瑠香はほんの少しだけ嬉しかった。憧れの存在──常に沈着冷静で心を乱すことのないパーフェクト人間。

 そんな憧れの人から話しかけられれば、誰でも嬉しいのは当たり前だ。それは本来の目的を忘れるほどであった。

「あ、あの、私にお話ってなんでしょうか?」
「別に大したことではいのよ。ただその、なんて言いますか……」

 一度も見たことのない瑞希の姿が新鮮に思える。
 歯切れが悪いというよりも、いつものオーラがまったく感じない。
 言い難いのかモジモジした態度で、顔が少し赤みがかっているようにも見えた。

「……? どこか具合でも悪かったりします?」
「いいえ、そうではなくてですね、誠也のことなんだけど」
「誠也が何かしたんですね。それなら私の方から言っておきますよ」
「そうじゃないの、そうじゃないのよ……」

 表情を一切崩さないはずの瑞希が照れくさそうにしている。
 何を言いたいのか予想すら出来ないでいると、意を決した瑞希が重い口を開き話し始めた。