どのくらい眠ってしまったんだろう。
教室はいつの間にか静かになっていた。
桃のバックは机に置きっぱなしだから、まだ部活は終わってないようだ。

ぼんやり教室を眺めていると、春野先生の姿が見える。


「あ、起きた」
目が覚めると目の前に春野先生がいた。


「大丈夫?疲れてる?」
心配そうな顔で私に近づく先生。
先生と一対一で話したことがないから、緊張する。

「すいません、ちょっと頭痛くて…課題が分からないから余計に…」
と話し終わったと同時に、課題の話題は余計だったかもしれない、と思う。
やっとたくさんの生徒を相手に仕事が終わったのに、また教えてもらうのは気が引ける。

「あ、でも大丈夫です。テキスト…」
見てやるんで…と言い終わらないうちに、先生は私の机の上に並べている課題をのぞき込んでいる。


「あーこの数学の問題ややこしいよね。これはね…」




先生はとても丁寧に教えてくれた。
とてもきれいな字だ。

教えてもらいながら、先生が人気なのは、ただ単にかっこいいからとかじゃなくて、教え方が上手だからなんだろうな、と思った。



先生の教え方が上手なこともあって、難しくてなかなか終わらないと思っていた課題は、すぐに終わってしまった。
また先生に教えてもらい気持ちがありなかがらも、放課後の先生はとても人気があることを思い出して、その気持ちを抑えた。

桜木(さくらぎ)は飲み込み早いから、きっと次のテストはバッチリだね」
きれいな瞳が私を見つめる。
思わずドキッとしてしまった。

「あ、ありがとうございます。」
照れ隠しで目を逸してしまう。

「いつも一人で解こうとしてて大変そうだったから、今日教えられてよかった」


しんとした教室の中で、先生の落ち着いた声だけが響きわたる。
私のこと、見ていてくれたんだな。話したこともないのに。

「ってことで、このあと会議に参加しなくちゃいけないからそろそろ行くね。また分かんないところあったら手伝うからね」
先生はニコッと笑って教室を去った。