季節外れの暖かさになり、暑くて制服のブレザーを脱ぐ。
春を通り越して、夏がもうすぐそこに来ているかのような暖かさだ。
春が来て、夏が来て…その頃には、先生はもうこの学校にはいない。
そう思うと胸が引き裂かれそうなほど寂しい。

終業式が終わり、先生との待ち合わせ場所に向かうと、私が1番好きな場所、桜の木の下に先生の姿が見えた。



私が初めて好きになった人。




「すいません、先生。待たせちゃいましたね」


「ううん、さっき来た」
春の風が先生の髪を揺らす。


実は先生に渡すお手紙を用意していた。
気持ちを全部、言葉で伝えるのは難しい。
だから手紙にしてでも自分の気持ちを先生に伝えたかった。




「先生、短い間でしたけど…本当にありがとうございました。私っ…えっと、先生とお話している時間が…」


すごく楽しかったです、と伝えようとして涙が溢れた。

「泣くなよー」
先生は慌てている。
やっぱり言葉で伝えるのは難しそう。
伝えたいことは全部、手紙に書いてある。

「先生、お手紙読んでください。それと…私、先生のこと好きでした。先生としてだけじゃなくて、男の人として、好きでした」

気持ちが溢れて溢れて、1番伝えたかったことが言葉に出ていた。


言い終えたと同時に、いい返事はもらえないだろうという絶望感と、伝えられたという安堵感。
先生は戸惑った顔をしている。

「ありがとう、桜木。でも…」

その言葉を最後まで聞きたくなくて私は

「分かってます、先生の彼女になれないことは…ただ、気持ちを伝えたくて」
と先生の声に被せるように話した。

「そっか、ありがとう」
先生は本当に嬉しそうな顔で私に微笑んだ。
いつもは、嬉しくなる笑顔なのに今日は切なく感じる。



「気持ちが伝えられてよかったです。先生、お元気で」
そう伝えてその場を去った。


「桜木も…元気で」
後ろから聞こえた先生の声は、包まれるような柔らかい声だった。