そして私は、深優のその質問には答えなかった。


「由依は臆病だね」


 それは、私も思う。

 そうでなかったら、十年も片想いなんてしていない。


「一回、当たって砕けてみたら?」
「砕けちゃダメじゃない?」
「だって、私なんか……みたいな空気出すから」


 そう言われてしまうとぐうの音も出ない。

 だけど、他人に言われたくないと思う私の気持ちを、汲んでほしかった。


「でもさ、なんで無理って思うの?」
「それは……」


 壱の歴代彼女はみんな、揃って美人だから。


 お世辞でも可愛いと言われたことのない私を、壱が選んでくれるとは、思えない。


「ごめん、そんな顔させたかったわけじゃないの。由依がそれでいいって言うなら、これ以上は言わない。ただまあ、アイツに泣かされるようなことがあったら、すぐに言ってね。ちゃんとした理由で奴を殴れる」


 その表情が、冗談ではないのだと教えてくれる。

 前半の素敵な言葉が台無しだ。


 どう反応するのが正解なのかもわからないし、聞かなかったことにしよう。


「ありがとう、深優」


 深優は小さく微笑みを返してくる。


 もし、深優が男の子だったら惚れただろうなってくらい、かっこいい横顔だ。