ふとそんなことを思って、私の足は止まった。


「由依?」


 先を歩く深優が、心配そうに振り返る。


 ダメだ、この不安を、深優に悟られるわけにはいかない。


 笑え。


「ごめん、深優。明日提出のプリントを教室に忘れたかもしれないから、取りに行ってくる。先に帰ってて」


 深優の返事を聞くより先に、私は校舎に戻った。


 深優に嘘だと思われないように上履きに履き替え、適当なところまで歩き、物陰に隠れる。


 絶望感に襲われ、冷静になっていく。


 やっぱり、私の気持ちは伝えなくてよかったんだ。

 深優が気付かれるようなことを言ってくれたから、知ることができた。


 壱に直接「迷惑だ」と言われてしまう前に、この気持ちに区切りをつけよう。


 そう心に決めたとき、壱が階段から降りてきた。


 私を見つけて笑うから、勘違いをしそうになる。


「由依、どうした? もしかして」


 壱は咳払いをして、言葉を切った。


 どうしてここにいるのかという理由を上手く説明できる気がしなかったから、止まってくれて、少し安心する。


「ねえ、壱」


 私が呼ぶと、壱の表情が固くなった。


 まるで、私がなにを言おうとしているのか、わかったみたいだ。