学校から帰って、咲空の部屋に向かう。
 朝、起きたら、使用人さんの一人である梅さんに、咲空は熱があると告げられた。
 だから、咲空は今日、学校を休んでいたんだ。
 朝は時間がなくて、咲空の様子を見に行けなかったから、急いで帰ってきたの。
 コンコンとドアをノックした。
 返事はない。
 寝てるのかもしれない。
「...失礼します......。」
 小さな声で言いながら、部屋の中に入る。
 初めて男の子の部屋に入るから、ちょっとドキドキする。
 不謹慎だけどそんなふうに思ってしまう。
 黒と白の家具が配置された部屋は、洗練されているというか、シンプルで落ち着いていた。
 ベットの方からは、少し荒い息遣いが聞こえてくる。
 歩いて行くと、咲空が寝ていた。
「...咲空、大丈夫......?」
 声をかけてみるけれど、返事はない。
「......。」
 咲空の顔は赤く染まっている。
 苦しそう...私が変わりたい。 
「愛姫さん、咲空様を見ててくれてありがとう。」
 しばらく、咲空を見つめていたら、後ろから梅さんが声をかけてくれた。
「今、お茶を淹れましたよ。
 どうですか、飲みませんか。」
 せっかく淹れてもらったのだから、いただこうかな。
「はい、いただきます。」
 返事をして立ち上がると、腕に重みを感じた。
 見ると、咲空が起きたみたいで、私の腕を引っ張っていた。
「咲空...!」
「愛姫、いかないで。」
 潤んだ目で、見つめてくる咲空。
「...さ、くぅ......。」
 え、まって、やばい、か、可愛すぎる...!
 ぐわっと心臓を掴まれたみたいに、苦しくなる。
 でも、これは嫌な苦しさじゃなくて、なんて言うんだろう...幸せな苦しさって感じ。
「...う、梅さん...。」
 頭の中では、幸せさとさっき梅さんに誘われたし...って感情が飛び交っている。
 梅さんは、笑顔で、
「お二人でゆっくりなさってください。
 それじゃあ、私は失礼します。」
 と、言ってくれた。
 ドアが閉まると、二人だからということに緊張してしまって、沈黙が広がる。
「あきぃ、手、繋いでて。
 俺が起きたとき、居なかったら、怒るからね。」
 手を繋ぎながら、甘える咲空。
「う、うん。」
 ヘロヘロと情けない返事をする私。
 どうしよう、スッゴイ可愛い...多分これは、女子顔負けのレベル。
 今の私の顔は多分真っ赤。  
 咲空、しっかりして!私の心臓が持たなくて、死んじゃう!
 心の中で叫ぶけど、伝わるはずもなく、咲空はすうすうと、寝息を立てている。
 私は、ガチガチに緊張しながら、早く咲空が起きてくれることを願うのだった。