同居から始める恋

 ご飯も食べてお風呂に入って、部屋でくつろぐ。
 眠い...、もう、寝ようかな...。
 ベットでダラダラしてると、
 コンコンッ、
「俺だけど、入ってもいい?」
 ノックの後に続いて、落ち着いて聞こえた咲空の声が一気に眠気を吹き飛ばす。
「いいよっ」
 声が裏返りそうになるのを、なんとか抑えて返事をする。
 ...なんで、こんなに緊張しているんだろ...。
 不思議に思うけど、それよりも咲空が私を、見つめてくるのが気になる...。
 自意識過剰なのはわかってる。
 でも、視線を感じる気が...。
「咲空」
 声をかけると、我に返ったような顔になってから、
「愛姫、髪、かわかしてあげよう。」
 と、鼻歌交じりで近づいて来る。
「よ、よろしくお願いしますっ。」
「うん」
 咲空は手慣れた手つきで、ドライヤーで髪を乾かしていく。
 咲空、歌うまいなぁ...。
 喋ってるだけでも綺麗な声なのに、歌になると透き通った声に魅力が増す。
「けほっ」
 小さな音が聞こえたと同時に、咲空の鼻歌が小さくなって最後には消えてしまった。
「...ねえ、愛姫。
 改めて、愛姫について教えてくれない?」
 真剣な表情で、咲空は聞いてきた。
 そして、咳き込む。
 私は、咲空の方に体を向ける。
「咲空大丈夫?風邪?」
 今、咳を...。
「ん?なんて?けほっ」
 やっぱり、咲空咳してる。
 疑いが確信に変わる。
「やっぱり、咳してるよ。」
 今度は、ちゃんと聴こえたみたいで、咲空がドライヤーを止めた。
「してた?咳。」
「うん。」
 即答した私に、咲空が笑う。
「そんなことないよ。俺、夢が叶って興奮してるのかも。」
 夢?叶う?
 なんのことかわからなくて、首を傾げる。
「俺、一緒に住むの夢だったんだ。」
 ...へ?
 ......それって...私と住む...ってこと?
 ボンッと、一瞬で顔が赤くなった。
 ...いやいやいや、ちょっと待って、私よ。
 一緒に住むの"一緒に"な相手が、私だとは限らないじゃない。
 咲空も、ちゃんとそこの部分言ってもらわないと。
 でも...もしも、相手が...私だったら...。
 きゃああ!
 どうしよう!
「どうした?愛姫、愛姫こそ、体調悪いんじゃないの?」
 一人で、暗い表情になったり、真っ赤になってる私を見て、不安そうに聞いてくる咲空。
 あっ...。
「ごめん、なんでもないです...。」
 は、恥ずかしい...。
 正に穴があったら、入りたい...。
 恥ずかしさで、顔に熱が集中して熱くなる。
 このまま、氷みたいに溶けたい。
 チラッと咲空の顔を覗き見ると、おかしそうに笑っていた。
 ...よかった、引かれてなかった...。
 ホッとして胸を撫で下ろすと、咲空が、
「愛姫って面白いね」
 と、また、笑い出した。
 面白い人っていう認識は、微妙だけど引かれてないのなら、別に気にしないことにした。
「咲空の誕生日っていつ?」
「四月二十五日」
「血液型は?」
「知らない、検査してないんだ。」
「兄弟は?」
「いない、一人っ子だよ。」
 一人っ子...私と一緒だ。
 世の中に他の一人っ子の人は、たくさんいるのに、咲空と一緒だと、こんなに嬉しく感じるのはどうしてだろう。
「愛姫の誕生日は?」
「十二月十四日、ちなみにA型で、一人っ子。」
「いや、誕生日しか聞いてないんだけど。」
 自分は聞いたのだから、咲空も聞いてくるのかなって思ったけど、そんなつもりはなかったみたい。
「...私も、今日で夢叶っちゃった。」
「え?」
「私もね、夢だったんだよ。 
 一緒に住むの。」
 ちょっと、言い方はずるいけど、嘘じゃないもん。
 本当に、もしも友達と一緒に家に住めることになったら毎日楽しいだろうなって思ってたし...。
 これで咲空はどんな反応するのかな...なんだか、これ、駆け引きみたい。
「愛姫は、誰と住みたかったの?」
「え?ええっと...」
 特に大きな反応もなく、聞いてくる咲空。
 逆に、聞かれるなんて思ってなかった私は、言葉を濁して、必死に言い訳の言葉を考える。
「...っ、友達と!友達と住んでみたかったの!」
 そうだ!友達とって言えばいいんだ!
 次から、これを使おう。
 お互いに気まずくならないちょうどいい言葉を見つけ出した私を、心の中で密かに自画自賛した私は、咲空の様子をうかがう。
 なんだか、表情が暗いように感じる。
 私、何かしちゃったのかな。
「咲空は?相手はだあれ?」
 私は、咲空を傷つけないように、慎重に言葉を選ぶ。
 今の咲空はちょっとしたことでも、壊れてしまいそうなぐらい、悲しそうな表情をしている。
「...俺も、誰か友達と...暮らしてみたかったんだ。」
 ちょっと、黙ったあとポツリポツリと話し始めた咲空。
 その表情は、自分で言いながら余計に悲しそうになっていく。
「そっか、私と一緒。」
 咲空は何を言わずに黙ったまま。
 私も、何も思いつかなくて黙ってしまう。
「...えっと...俺、もう寝るよ。おやすみ。」
「あ...うん、おやすみなさい。」
 咲空は、立ち上がって、部屋を出て行く。
 私は、そのまま電気を消して布団に入る。
 ギュッと目をつぶって考える。
 ...もしも、私が一緒に住みたかったのは咲空だよって言ったら、咲空はどんな反応をしてた?
 優しく笑って、俺もそうだよって言ってくれた?
 それとも...考えたくないけど、嫌そうに俺は違うって言うかな。
 でも...もし、後者だったら私との、婚約を反対するよね。
 前者であってほしいな...。