海を眺めていると、ふと昔のことを思い出した。
 お父さんが死んじゃって悲しかった時も、ここで泣いたっけ...。
 今も悲しいことがあると来ることがあるけど、海を見てボーッとしていることが多い。
 既に日は沈んでいて、月の光が反射した海は暗くてすごく不気味。
 でも、私はその海が大好きだった。 
 嫌なことも全部飲み込んでくれそうだからかな。
 不思議と安心しちゃう。
 砂を踏み締める音がしてハッとする。
「愛姫」
 なんとなく、誰なのかはわかる。
「なに?」
 そこには、予想通り咲空が立っていた。
「愛姫のお母さん、心配してたよ。」
 自分の言葉に彼は、もちろん俺も心配した。と付け足した。
「...でも、関わったこと無いじゃん。」
 心配してくれて、嬉しいくせに口から出る言葉は、嫌味ばっかり。
 こんな自分が嫌になる。
 でも、関わったことないのは本当だから。
 頭の中で、嫌味ばっかり言ってくる悪魔と、これは正論って言ってくる天使が喧嘩している。
 ...どっちもあんまり、変わらないや。
「たしかにそうかもだけど、もっと仲良くなりたいよ。」
「なんで私と...。」
 仲良くなるんだったら、もっと可愛い子と遊べば良いのに。
「そういえば、なんで海に来たの?」
 急に話が変わる。
 ...なんか、掴みどころの無い人。
「好きだから...海。」
 一応、質問に答えて、海に向き直る。
「どんなとこが?
 海ってちょっと怖くないか?吸い込まれそうで。」
 これで話は終わりだと思ったけど終わってなかったらしく、また質問される。
「そうかな...それこそ、嫌なこと吸い込んでくれそうで、一つの魅力だと思うけど。
 それに、月の光を浴びて、キラキラ光ってて綺麗だと思うんだけどな。」
 彼の方を見ながら言うと、彼は私の顔と海を見比べて、
「たしかに...。
 今の海は愛姫の目みたいに綺麗だ。」
 と、笑った。
 目?
「ほら、愛姫の暗めの青い目と、今の海の色がそっくりじゃん。」
 目を輝かせている彼は、ちょっと子供っぽい。
 たしかに、私の目は暗い青色とも言える。
 でも、海みたいに透き通った透明感はなくて、綺麗とは言えないと思う。
「海っぽい?」
 彼は力強くうなずいて、もう一度綺麗だなって褒めてくれた。
「海、好き?」
「うん!綺麗だし、好き!」
 海について聞いてもらえたのが嬉しくて、ついつい大きな声になってしまう。
 すると、咲空はクスッと笑い優しい目で、
「愛姫はやっぱり笑顔が似合うよ。」
 と、褒めてくれた。
 笑顔が...似合う?
 そんなこと、ないと思うけど...でも、褒められて嫌な気持ちにはならない。
 むしろ、すごい嬉しい。
「わ、私も、咲空の誰にでも優しいところ、いいなって思ってたの...!」
 思わず本音を打ち明ける。
 ...私、初めて咲空の名前...。
 咲空は目を見開いてから、笑顔になって言う。
「俺もだよ...!」
「わっ...。」
 急に腕を引かれて、転びそうになってしまったけど、彼に抱き止められた。
 そして、そのまま腕の中に包まれる。
 ...え?今、私、抱きしめられて...る?
 今の状況を理解すると、一瞬にして全身が熱くなる。
 すぐに離れたけれど、私の身体はしばらくの間熱いままだった。