「しーほーちゃん!」
 教室の中に、探していた姿を見つけて、走って行って飛びつく。
 出来るだけ明るく見えるように意識しながら。
「わあっ!愛姫ちゃんおはよう」
「おはよう!ねえねえ、詩歩ちゃんは___、」
 ヒソヒソと誰にも聞かれないように話す。
 詩歩ちゃんはそれに応じて耳を私の口元に近づける。
「好きな人できたの...?」
 声を潜めて聞くと詩歩ちゃんは分かりやすく、目を見開く。
 昨日、思ったんだ。きっと、正直になにかあった?って聞いても詩歩ちゃんは答えてくれないって。
 一回聞いてダメだったから、作戦を変えようって。
 詩歩ちゃんは優しいから、心配させたくないんだと思う。
 私としては、悩みでもあるんだったら話して欲しいけど。
 だから、あんまり話したことのない恋愛面から反応を伺ってみようって思って。
「な、なんで?」
 驚いた詩歩ちゃんの声が、裏返る。
 これは...何かある!
「なんでって、急に詩歩ちゃん、可愛くなったな〜って思って。」
 詩歩ちゃんは白い頬を赤くした。
「...実は...ちょっと気になる人がいてね...まだ、好きって訳じゃないからね!?
 でも、素敵だなあって思って...。」
 そう言って、詩歩ちゃんは手でほっぺを抑えた。
 そうだったんだ...。
 詩歩ちゃんも、いつのまにか恋をしていた。
 詩歩ちゃんの恋こそは、実ってほしい。
「だから、恋の上級者である愛姫ちゃん、いろいろ、相談に乗って欲しいな。」
 詩歩ちゃんは、はにかんで可愛く言う。
「もちろん!」
 詩歩ちゃんの手を取って、しっかり目を見て言う。
 恋の上級者って言うのはよく分かんないけど、相談とかは聞くよ!
「ふああ〜、おはよ〜。」
 そこに、咲良ちゃんが眠そうな顔をして教室に入ってくる。
「咲良ちゃんおはよ、今日遅かったね。」 
「ん〜、寝坊しちゃってさ〜。」
 咲良ちゃんは、縛っていなかった髪をまとめながら、
「なんの話?」
 と、聞いてきた。
 詩歩ちゃんは私と、顔を見合わせて笑った。
「え〜、どうしようかな〜。」
「教えてよ!」
「咲良ちゃん、女の子はちょっと、秘密がある方が魅力的なんだよ。」
 私も一緒になって、雑誌に書いてあったことをそのまま言ってみると、
「愛姫まで!」
 と怒られてしまった。
 そのとき、少しぎごちなくなっていた、私と詩歩ちゃんの関係が近づいた気がした。