「...き!」
「......」
「愛姫!」
「...!え、なに!?」
 突然、耳元で名前を呼ばれて、声を出す。
「愛姫、どうしたの?」
 どうやら、咲空が呼んでたみたい。
「え...いや、ちょっと考え事。」
「ふ〜ん、何があったの?」
 どうしたら、咲空のことを諦められるんだろう。
「相談乗るよ。」
「ありがとう、でも、大丈夫。」
 本人になんて言えるわけがない。
 これ以上、優しくしないで欲しい。
 前に、手にキスされてかわいいって言われたことがある。
 でも今、もしかしたらあれは、本当に寝ぼけてたんじゃないかってなって思う。
 でも、あの時の記憶は鮮明に残ってて。
 勘違いじゃないと思うんだ。
 というか、そう思いたい。
「...じゃあ、無理には聞かない。」
 咲空は優しく微笑んで、言葉を続ける。
「でも、何か俺にできることがあったら頼ってね。」
「うん、ありがとう。」
 せっかく相談に乗ってくれようとしたのにごめんね。
 お礼を言いながら、心の中で謝った。
 
 詩歩ちゃん、どうしたんだろう...?
 部屋に戻って課題をやっていると、ふと、そんなことが頭に浮かんだ。
 今日の詩歩ちゃんはいつもと様子が違った。
 帰り道、笑っているんだけど、いつもと、何かが違うんだ。
 何かあったの?と聞いてみたけど誤魔化して、悲しそうに笑っていた。
 私自身に、心当たりはなくて、どうしようかと考える。
 明日、もう一度話を聞いてみよう。
 考えた末に出てきたのは、そんな些細なことだった。
 それでも、詩歩ちゃんの力になれるのなら、聞いてみる。
 そう決めて、再び課題に取り組んだ。