私が家に帰ると、誰かの靴があった。
 誰のだろう?
 お客さんでもいるのかな。
 でも、外に車は止まってなかった。
 なんだろう。
 そう思ってリビングを覗くと同い年ぐらいのイケメンの男の子と目が合ってしまった。
 急いで、戸を閉じようとしたけど、彼が先に声を出してしまったから、お母さんも気づいてしまった。
 あ...え?
 あの人...。
「愛姫おかえり!
 ちょうどいいところに。この子は若林咲空君、愛姫の結婚相手よ!」
「へ?!」
 思わず素っ頓狂な声が出る。
いやいやいや、結婚相手?!
「まあ、結婚相手って言ってもまだ許嫁ね。」
 はい?
 動揺を隠せない私に、彼が、
「愛姫、これからよろしくね。」
 と、いわゆる、アイドルスマイルを浮かべている。
「許嫁って何?」
 彼をスルーして、お母さんに問いかける。
「その言葉通りの意味よ。」
 お母さんが言う。
 ええ?
 いや、だってお母さんは知らないかもしれないけどこの人、うちの学校の王子様ですよ!?
 そう口を開きかけて止めた。
 それを言ってしまうと、お母さんは逆にテンション上がると思う。
 お母さんと咲空は、楽しそうに会話を始める。
 勝手に話は進んでいって、私は入って行けそうにない。
 うつむいて、小さくため息を吐き出す。
 ダメだなあ、私。
 いつも楽しそうに話しているところに入っていったり話しかけることができない。
 それは相手が家族だったとしても一緒で、楽しそうな雰囲気を私のせいで壊してしまうと考えるとこわい。
 子供の時はそんなことなかったんだけどな。
 視界の端では、楽しそうに話しているお母さんと彼がいる。
 なんだか、この明るい雰囲気に取り残された気持ちになってしまう。
 そんなことないって分かってる。
 けど、そう感じてしまう。
 私は、
「ちょっと、出かけてくるね。」
 と、声をかけて家を出た。
 そして、海へと向かった。