元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する

(ホント、幸せだったなぁ)


 殿下との日々を思い返すだけで涙が滲んでくる。
 けれど、わたしにはまだまだ無限の未来が広がっている。それが人から見て平凡なのか、特別なのかは分からない。だけど、とびきり幸せなものにしたいなぁって心から思った。


(さてと)


 今日からわたしは社会人になる。

 両親と離れ、新居も構えた。
 新しい場所、新しい生活。自分らしく生きていきながら、幸せを模索していくんだ。


(頑張らないと、ね)


 気持ちを新たに、わたしは職場の扉を開け放った。


「――――ようやく来たか」


 その瞬間、わたしは思わず目を見開く。
 初めて赴いた生徒会室で、殿下がわたしに放ったセリフと全く同じだ。


「……デジャヴ?」


 目の前には、あの頃よりも少しだけ大人びた殿下がいて、とても楽し気に笑っている。
 心臓がドキドキと高鳴り、頬が熱くて堪らなかった。