「……逆に聞きますけど、殿下こそ、どうして猫を被っているんですか?」


 気づけば殿下は眼鏡だけじゃ飽き足らず、わたしの髪の毛を弄くりだしていた。せっかくキッチリ三つ編みにしていたのに、解けてしまって台無しだ。思わず唇を尖らせれば、殿下は不敵な笑みを浮かべる。


「そんなの、簡単だろう? 『完璧な王子様』って奴を周りが求めるからだよ」


 殿下はそう言って、わたしの髪の先にチュッと口付けた。
 それは『完璧な王子様』としての仕草なのか、はたまた『俺様王子』としての行為なのか。わたしには判断が付かない。心臓が小さく揺れた。


「……自分で『完璧』とか言っちゃいます?」


 動揺を誤魔化すように笑いながら、わたしは殿下を見上げた。

 確かに、普段の殿下は『完璧』ってワードがピッタリな、理想の王子様を演じている。
 見た目や能力的なこともそうだけど、柔和な受け答えとか、誰にでも平等に優しく接するところとか、細部に渡って自分を押し殺しているっていうのが、わたしの抱く印象だった。