(……殿下の目には、わたしはどんな風に見えてるんだろう)


 魔法で作り上げた『平凡な』わたし? それとも、国を傾けた悪女としてのわたしだろうか。
 だけど、どうしてそんなことが気になるんだろう。何だか気まずくなって、わたしはそっと殿下から目を背けた。


「ふぅん、それで? 現世ではそんな波乱万丈は嫌だから、目立たないようにしてたってわけ?」

「……そういうことです。平凡な人間として生きて、そんな自分に見合った人と付き合って、穏やかに人生を終える。そのために、わたしは平凡な自分を演出しています。人並の幸せが欲しいから」


 殿下に取り上げられた伊達眼鏡を奪い返しつつ、わたしは大きなため息を吐く。

 だからこそ、わたしはこの男に関わりたくはなかった。
 殿下や貴族がわたしに興味を持つとか、そのせいでまた国が傾くなんて考えるのは、ただの思い上がりなのかもしれない。

 けれど、背負うリスクは最小限に留めたい。危うきに近寄らないことが一番大事だって、わたしは身を以て知っていた。