(なるほどねぇ)


 殿下がわたしより強い魔力を持っていることは分かっていたけど、それがこんな形で影響するとは思わなかった。思わずため息が漏れる。


「で? どうして自分を抑えてんの?」


 殿下はもう一度、同じ質問をしてきた。どうやら答えない、という選択肢はないらしい。
 正直、あまり深堀してほしくない話題だけれど、この男のしつこさは折り紙付きだ。この辺りで答えておくのが無難だろう。


「そんなの、平凡な人生を送りたいからですよ」


 殿下の腕の間をすり抜けながら、わたしは答える。


「それじゃ答えになってないんだけど」


 殿下はなおも不機嫌な表情を浮かべ、わたしの後に付き纏った。さっきからやたら距離が近いし、嫌ーーな感じだ。このままフェードアウトしたかったけど、どうやら許してもらえそうにない。観念して、わたしは椅子に腰掛けた。


「前世のわたし――――傾国の悪女だったんです」

「ふはっ!」


 わたしの予想通り、殿下は盛大に笑ってくれた。真面目に聞かれるよりは、そっちの方が気楽だもの。若干イラッとしつつも、わたしは話を続けることにした。