秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています


「会社を継がなかったって……」

秋人の言葉に呆然としてしまう。

私があのとき、秋人にあやめのことを相談していたら、葛城堂を継がずに結婚する未来があったのだろうか。

私が黙って見つめていたので、彼は何を思ったのか気まずそうに僅かに目を細めた。

「……すまない。そんなタラレバ、今さら言ったって無駄なのは分かってる。でも……また会えたんだ。だから俺は、ただ君の傍にいたい。それだけだよ」

秋人がそう言葉を残したのと同時に、エレベーターが開く。

彼とは目も合わさず、挨拶を交わさず……その場で別れた。

私は秋人の言いつけを守り、彼が手配してくれた車をエントランスで待つ。

ソファに腰かけ、吹き抜けになっている天井をぼんやりを見上げた。

丸型にくりぬかれたガラス窓から、陽光がキラキラと降り注いでいる。

本当は、三人で、世間でいう当たり前の家族になって暮らしたい。

それは私が最も望む未来だ。

三年前、宮森さんに秋人を諦めると返事をした際に、葛城堂は赤字だと教えてくれた。

ネット通販が主流になり、品の価値が落ちたことが原因で、百貨店の客足が減少したという話だった。

そこで敏腕副社長の薫さんに白羽の矢が立ったのだが、亡くなってしまい……。

すでに青年実業家として大成功を納めていた次男の秋人を社長に迎え、葛城堂を建て直す話になったそうなのだ。

私は……秋人と別れてから、葛城堂を避けていた。

秋人を思い出すことは辛く、極力ふたりで過ごした幸せな時間を忘れたかったからだ。

もちろん経営状況なんて知る由もないけれど、今日の銀座葛城堂の賑わいを見たら、秋人の経営はとても上手くいっているのだろう。

私の判断は正しいと思いたかった。

けれど彼のさっきの様子を見たら、失望と希望と対極の感情でぐちゃぐちゃになる。

私は考えることを辞めた。