“秘書”という単語に体が過剰反応する。
どくどくと心臓の音が鼓膜に響き、私に話しかける秋人の声が聞こえない。
「待って! 電話かけないで秋人!」
「え……?」
私の剣幕に驚いた彼は、すでに秘書の方に連絡をしていたようで耳からスマホを外した。
「結愛、いきなりどうしたんだ……?」
戸惑いの色を浮かべる彼を見て、申し訳さが込み上げる。
でももし、秋人が“秘書”と呼ばれる方を呼んで宮森さんがやってきたら、取り返しがつかない。
「ごめんなさい。その……今後の仕事でも会うかもしれないし、秋人の秘書の方の名前を教えてほしいんだけど」
秋人の返事はうやむやにし、それとなく伺う。
すると秋人は驚いた様子だったけれど、いつもの調子で微笑んでくれた。
「たしかにそうだな。秘書はふたりいるが、名前は……」
彼じゃないことを祈っていると。
秋人が教えてくれた秘書の名前は、“宮森さん”じゃなかった。
宮森さんはあのときすでに歳を召していた。
あれから三年という月日も経っているし、引退されている可能性だってあるだろう。
安堵していると、秋人は再びポケットからスマホを取り出した。
「基本的にそのふたりが俺のスケジュール管理や、外部との対応に当たっている。連絡先を教えておく」
「ありがとう」
秋人の説明に納得した私は、肩にかかっていたショルダーバックからスマホを取り出す。
「だが、秘書でも社長室に勝手に入ることは許されていない。結愛が花を生けにくるときは必ず、俺がこの部屋に滞在しているときだ。イレギュラーで部屋を開けることもあるから、俺と直接連絡がとれるようにしてくれ」

