エントランスには受付の女性がカウンターにふたりいるだけで、他には誰もいなかった。
思わずホッと胸を撫でおろす。
きっと大丈夫だとは思いながらも、秋人の父親や宮森さん、そしてあのときにいた男性たちに遭遇してしまったら……と少しだけ不安だったから。
「次は社長室に案内する。ついて来てくれ」
秋人と一緒にエレベーターに乗り込み、十五階の社長室に向かう。
密室にふたりきりになり、距離が一気に縮まった。
秋人の香りが濃厚に鼻腔をくすぐり鼓動が速まっていくのを感じていると、ふいに端正な顔がこちらを振り向く。
「会えてよかったよ、結愛。誕生日おめでとう」
「!」
秋人は温かい表情で微笑みかけてくる。
先程見せていた作り物の笑顔とは全く違う、いつもの彼だった。
「ありがとう、秋人。覚えてくれていたのね」
「忘れるわけがない。俺にとって最も大切な日だ」
確固たる意志を持ったつもりでも、彼の笑顔や言葉に、簡単に揺らいでしまう。
なんて情けないの、私は……。
自分がどんな表情になっているか見当がつかないが、上手くは笑えていないはずだ。

