葛城家の家人である宮森からの電話に頭が真っ白になった。
話を聞くと兄の薫が旅行先のチュニジアとイタリアのランペドゥーザ島の間で転覆した船に乗っており、水難事故に遭ったという話だった。
事故発生から数時間経った現時点でも、乗客は誰ひとりとして救助されておらず、懸命な捜査が続いているのだという。
『連絡をくれてありがとう。それで、母さんと父さんは大丈夫なのか』
『はい、奥様はショックが大きく落ち着かない様子で、旦那様は滞在先の九州から戻って来ると連絡があり』
今すぐに実家に戻ると宮森に伝え、震える手で電話を切った。
不安と焦りで気が動転しており、冷汗が噴き出た。
俺と兄の薫は、腹違いの兄弟だ。
父親である誠の離婚した妻との間にできた子が薫で、後妻の間にできたのが俺。年齢は十も離れ、性格もまるで違った。
薫はとにかく懐が広い男で、父さんと母さんの間にできた俺を嫉むことなく、本当に可愛がってくれた。
勉強もスポーツも、遊びも全部。薫から教わった。
薫は兄としても素晴らしかったが、葛城家の長男としてもしっかりと役割を全うした。
実家の百貨店を継ぐつもりで、学生時代はありとあらゆる分野で努力を続けていた。
俺も俺で英才教育は受けていたが、次男だからとそこまで父親からも期待されていなかったと思う。
いくら努力しても、優等生の薫と比較され、認められることもなかった。
そして薫も、俺には自由に生きてほしいと常々言っていた。
『狭い世界にいるのはお前には似合わない。自分の好きなことを思い切りやれよ』

