彼の声が胸にじんと響いて、台車の取っ手を握る手に力がこもる。
薔薇の花束をくれた〝彼〟は、とうの昔にいない、分かっているから胸がしめつけられる。
けれど、陶酔ともいうようなざわめきにも、この痛みは不思議なことに似ているのだ。
私、今日もまだ好きだ。
やり場のない想いは、ただただ痛みとして心に傷を増やしていく。
「きゃっ、ビックリしたわ……!」
突然聞こえてきた甲高い声に現実に引き戻された。
スーツやドレスを着た集団の後ろを、台車で通ろうとした瞬間、ひとりの女性が急にこちらを振り返ったのだ。
急いで台車を脇に留め、私を睨む女性のほうへ走っていく。
「大丈夫でしたか? お怪我は?」
「ちょっと気をつけなさいよ! 危ないでしょうが!!」

