あやめは母と手を繋ぎながら、短い足を精一杯伸ばしてこちらに歩いてくる。

彼女の満面の笑みに、その場に漂っていた張り詰めた空気が一気にやわらいだ。

「ちょっと予定より遅くなっちゃった。結愛ったら、全然メッセージが既読にならないんだもの! まぁいいわ」

何も知らない母は私に文句を垂れながら、あやめと一緒に歩いてくる。

「あっ、あれ? お取込み中だったかしら……?」

ようやく秋人の父の存在に気付き、母はたじろぐ。

「お母さんたら……」

「あやめ。来てくれてありがとう」

「ぱぱぁ、会いたかった!」

秋人がしゃがんであやめに手を伸ばすと、彼女は喜んで飛びつく。

まだパパと言い始めてから一ヶ月も経っていないのに、すっかり板についている。

秋人とあやめが楽しそうに話している姿を眺めていると、視界の端に秋人の父の顔が映った。

「ああ、よかった。とても幸せそうで……」

そう呟いた彼の表情は、見たこともないほど穏やかだ。

釣られて微笑んでいると、あやめがふいに後ろを振り返る。

「はじめまして……!」

突然秋人の父に挨拶を始めたあやめに、私も秋人も動揺してしまう。

そうだ、初めてあった人にはちゃんと挨拶をするように躾けたのは私だっけ……。

「はじめまして。あやめちゃん」

「うんっ……!」

秋人の父に、元気よく返事をしたあやめは満面の笑みを見せる。

すると厳しい表情をした秋人も、ふいに頬を緩ませ、笑顔を見せてくれた。

よかった。少しずつ、仲を深めていこうね……秋人。

秋人と秋人の父の溝は深いとは思う。

けれど目の前で繰り広げられている光景を眺めていたら、

私はいつか、あやめを通して完全に埋まるような気がしたのだ――……。