秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています


雪平さんはいつも通りきちんとスーツを着て、美しい顔で微笑んでいた。

「間に合うといいですわね、お客さんが来る前に」

私の目を見てはっきりと言い放たれ、思わず眉間に皺が寄った。

作品を壊した犯人が、彼女だとはっきりと決まったわけではない。

けれど、あの楽しそうな様子を見ていると疑わざるを得ない。

拳を握りしめたそのとき、パンパンッと手を叩く軽快な音が聞こえてくる。

「気持ち切り替えていきましょっ! あと少しなんだから!」

私の苛立ちを、山根さんが元気な声で吹き飛ばしてくれた。

「そうだ、あと少しなんだ! 絶対に間に合う! 間に合わせるんだ」

「はい!」

続いて店長が鼓舞してくれて、私たちは勢いを取り戻した。

絶対に間に合わせる。

お店にきてくれたお客さんたちに、楽しんでもらえるように。

そして、貴船フラワーに仕事を依頼してくれた秋人のために……。

雪平さんには、絶対に負けない。

秋人は他のエリアを見て回った後、私たちが作業する場所に立ち寄ってくれたのには気づいていた。

でもなんとなく、彼が微笑んで見守っていてくれるような気がしたから……私はそちらを見なかった。