秋人と別れてからの記憶はあまりない。
制作チームは予定より二時間も早く、全員が集合することができた。
チームに参加していない貴船フラワーの従業員、そして葛城堂のイベント企画部の社員のかたも何人か集まってくれて、全力で作業にあたった。
気付いたらお店の営業時間、三十分前になっていた。
まだゴールは少し先だ。あともう少し。その少しがとても辛い。
現場に緊迫した空気が漂っていると、ふいに人のざわめきが耳に届く。
「――こちらがバレンタインイベントの会場になります」
イベント企画部部長の吉田さんの声だ。
私を含め、制作メンバー全員の視線がそちらに向かう。
葛城堂社長の秋人を含む、大勢のスーツの男性が立っていた。
ついに葛城堂の関係者が、視察にやって来たのだ。
秋人と視線が絡むと、彼は心配そうに目を細めた。
「あらあら……あそこはまだ、準備をされているんですの?」
くすっと鼻で笑う声がどこからともなく聞こえ、頭が真っ白になる。

