「っ!」

受け取った名刺には【葛城秋人(かつらぎ・あきと)葛城堂・代表取締社長】と記載されている。

まさかあの後、山根さんが秋人に話しかけられていたなんて夢にも思わなかった。

衝撃が大きく言葉を失っている私に、山根さんは事の説明を始める。

「会場の搬入が終わって廊下を歩いているときに呼び止められて。瀬名ちゃんの知り合いだって名刺渡されてね。瀬名ちゃんは働いてるのか聞かれたけど、いきなりだったし、怖くて……ほら、最近ストーカーとかも多いじゃない? だから何も伝えずに、名刺だけもらってその場を立ち去ったんだけど。本当に知り合いで大丈夫?」

「……は、い……ストーカーとかでは決してないです……昔の、友人……です」

そう答えるのでやっとだ。

きっと勘のいい秋人は、山根さんが身に着けていた店のエプロンを見て、私が貴船フラワーで働いていることに気付いたのだろう。

呼吸が浅くなり、落ち着かせようと大きく息を吐く。

そんな私を見て「そうなんだ……」と山根さんは独り言ちる。

「名刺を見てびっくりしちゃった。葛城堂の社長だなんて……、銀座とか新宿にある百貨店のよね?」

話しすぎないよう気をつけないとと言い聞かせ、僅かに首を傾げる。

「彼、Happit生命の創業パーティに参加してたんじゃないかなと思うわよ」

「え? この前の?」

驚いて顔を上げると、山根さんはまだ心配そうな眼差しを私に向けていた。

「そう。有名企業の社長や彼らの奥様や、令嬢がたくさん参加してたみたいだもの。それにHappit生命の孫娘と葛城堂の社長の婚約発表が行われるんじゃないかって噂が立っていたから、余計にじゃないかしら」

「婚約、発表……」