「出ないんですか?」
さっきから電話は鳴り続けている。

「うん。俺がでなければ秘書課に回るはずだ」
「でも、大事な用事かもしれませんよ」
交換だって副社長に繋ぐべきと判断したからここに回してきたはずだ。

「俺が電話に出たら、沙月は逃げるだろ?」

ウッ。
行動を読まれている。
確かにそのすきに出て行こうと考えていた。

しばらくして電話は切れた。

「これって、脅しですよね」
「ああその通り。俺はどんなことをしても沙月が欲しいんだ。だから、どんな手を使ってでも君に近づくよ」
このセリフ、力もお金もある財閥の御曹司が言うと妙な凄味がある。
そして、その表情を見て尊人さんは本気なんだと私にもわかった。

「でも、何で急に?」
付き合っている時も、別れる時でさえも、私の気持ちを優先して無理を言われたことは無かったのに。

「もう物わかりのいいふりをして、諦めるのはやめたんだよ」

この5年で私も変わったように、尊人さんにも色々なことがあったのだろうとしみじみ感じ言葉にならなくなった。

トントン。
「副社長」
扉の向こうから女性の声がした。

「実はもうすぐ会議の時間なんだ。でも、俺は沙月がうんと言うまでここを動く気はないよ」
「そんなあ」

「副社長、会議のお時間です」
ドアの向こうから聞こえる声が幾分大きくなった。

さあどうするんだ?と私を尊人さんが見ている。

トントン。
「副社長?」

「わかりました。わかりましたから、行ってください」
このままでは会議をすっぽかしかねない。

「ありがとう沙月」
尊人さんは嬉しそうに言うと、私をハグしてきた。
「ちょ、ちょっと、セクハラです」

「ごめんごめん、これから気を付けるから」

怪しいなとは思うけれど、仕方がない。
結局、私が折れるしかなかった。