「何のつもりですか?」
淹れたてのコーヒーを出して、私は文句を言った。

初めて出会った時から押しの強い人だとは思った。
私が何を言っても笑っているし、いつもどこかで私をからかうような態度にも大人の余裕を感じていた。そんな所に魅力を感じていたのも否定しない。
それでも、尊人さんとの関係は2人だけの秘密だと思っていたのに。

「運命の再会だろ?」
悪びれもせず笑顔を見せる尊人さんが憎らしい。

「だからと言ってあんなやり方をしなくてもいいのに」
おかげで美貴さんに知られてしまったじゃない。

「これ以上黙っていてほしければ、仕事が終わってから連絡して」
美貴さんに渡したのと同じ名刺に携帯番号とアドレスを書き、尊人さんが差し出した。

「連絡しなかったらまたここに来るんですか?」
「よくわかっているね」

満面笑顔の優しい顔が、今の私には悪魔に見える。
やはり尊人さんは、私より一枚も二枚も上手で、的確に急所を突いてくる。

「わかりました」
こうなったら連絡をするしかないだろうと、私も覚悟を決めた。


この日を境に、私の生活は変わった。
今まで大学とバイトしかなかった生活に尊人さんとの時間が生まれるようになった。
忙しい尊人さんだから頻繁に会うことはできないけれど、朝夕のメッセージや時々会って食事をする時間が私にとって楽しみになっていった。
それは決して無理強いされた訳ではなくて、私自身が望んだもの。
尊人さんの言う通り、『人を好きになるって、理屈じゃなくて本能なんだ』と身をもって痛感した。
思えば付き合ったのはたった数ヶ月だったけれど、この時の私は一生分の恋をした。

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