再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~

トントン。
「失礼します」

約束の10時。
応接室ではすでに社長と田所大臣が談笑中だった。
そして、そこに、
「お久しぶりね」
なぜか私に笑顔を向ける女性。

「絢子、知り合いか?」
「ええ、ちょっと」

大臣の問いかけに意地悪そうな顔で答えるのは娘の絢子さん。
彼女は5年前、私に尊人さんとの別れを迫った張本人だ。

「彼女は私の秘書の佐山です、大臣」

首をかしげる大臣に尊人さんが紹介してくれたけれど、私はとても居心地が悪い。

「尊人さん、お久しぶりです」
「絢子さん。その節は申し訳ありませんでした」
「仕方がないですよ。お仕事で大変だったんですから」

5年前、もうすぐ婚約だと噂されていた2人の関係は、尊人さんのアメリカ渡米とともに終わったのだと聞いた。
その後、絢子さんは結婚したらしいたけれど・・・

「娘も一度は嫁に行ったのに、戻ってきましてね。今は私の秘書をしています」
「そうですか」

大臣と絢子さんと社長と尊人さん。
4人のお会話は和やかに進み、私はその様子を少し離れたところから見ていた。
そして、しばらくしてから気が付いた。
これはお見合いの席だ。
大臣は尊人さんと娘の絢子さんを引き合わせるためにMISASAまでやって来た。
もちろんそのことは絢子さん自身も承知の上だろう。

「尊人さん、よかったら今度お食事にでも行きませんか?」

過去の経緯に少なからず責任を感じている尊人さんに対して、遠慮なく迫っていく絢子さは5年前と少しも変わっていなかった。