だけど、その後聞こえた声に、溢れかけた涙が一気に引っ込んだ。

 耳の奥に響いた声は、すごくハッキリしていた。だけど、始めは何を言われたのか、よく分からなくて

「そっか……だから君、僕と波長が似てるのかな」

「え? なにいって」

「僕もだよ」

「え?」

「僕も大好きなんだ。可愛いものが」
 
 その言葉に、俺はただただ目を見開いた。

 今、なんて言った?
 可愛いものが好き?
 魔王の……息子が?

「う、ウソだ」

「嘘じゃないよ」

「だ、だって、お前、魔王の息子なんだろ!? あ、もしかして、あれか! ワケあって男として育てられた、女の子とか!?」

「なにそれ。正真正銘、男だよ」

「え、でも……じゃぁ、魔王の息子なのに」

「魔王の息子だけど、可愛いものが好き。そんなに、おかしい?」 

「…………」

 その言葉には、一気に気が抜けた。
 もしかしたら、おかしいのかもしれない。

 魔王の息子って、すごく怖いイメージがあるし、可愛いものが好きな魔王の息子なんて聞いたことないし。でも

「おかしく……ない……っ」

 俺が、そういえば、その後アランは、さっきとは違う、優しく笑みを浮かべた。

「そっか……ありがとう」

 笑ったアランは、魔族というよりは、天使みたいだった。

 だけど、なにより驚いたのは

(俺の他にも、いるんだ。可愛いものが好きな……男の子)

 それは、人間ではなかったけど、俺はその日、すごく安心したんだ。

 まるで、暗い暗い部屋の中に、突然明るい光が、射しこんできたみたいに……