ドオオォォ───ン‼

 天高く、雷鳴がとどろく。

 暗い空を切り裂くように落ちてきた雷は、同時にそびえたつような『魔界の門』を破壊した。

 見上げるほどの高さがある大きな扉。
 そして、その扉を壊したのは、銀色の髪をした美しい少年だった。

 深いアメジスト色の瞳に、小柄な体格。

 曇天うずまく魔界の空とは違う、透き通るような姿をした少年は、手にした魔導書を開くと、すぐさま呪文を唱えた。

『時の神よ。我が血の盟約のもと、その命に従え。青の書・第二十三番──時空飛行!』

 本に手をかざし叫べば、少年を中心に青白い魔法陣が現れた。

 円陣を彩るのは無数の光。そして、どこそこから風が舞い上がれば、その光と風は、瞬く間に少年を取り囲み、発動の準備を整える。

「アラン様!」

 だが、その時、どこからか女性の声がした。

 アラン──と呼ばれた、その少年の肩には、赤と黒のゴシックドレスを着た人形がしがみついていた。

 金色の髪をした、美しい顔立ちの人形。

 だが、その人形はもう傷だらけで、三つ編みにした長い髪は乱れ、引き裂かれた肩からは、痛々しく綿がはみ出ていた。

「アラン様、いけません! これ以上魔法を使っては……!」

「僕なら、大丈夫……! それより、今から飛ぶから、シャルロッテはしっかり掴まってて」

「飛ぶって、どちらに?」

「行先は人間界。僕はもう──二度と魔界には戻らない」

 そう吐き捨てたアランは、先ほど破壊した門の奥をにらみつけた。

 土煙が晴れると、その奥から、人影がゆらりと現れる。

 黒いマントに、長い黒髪。

 全身を黒で覆い尽くしたその男は、アランと目が合うなり、再び何体もの魔獣たちを指し向けてきた。

 アランの何倍もの大きさのドラゴンが、うなり声をあげながら迫り来る。

 だが、ふきあれる光と風は、あっという間にアランたちを飲み込むと、その牙が届く前に、あっさりその姿を消しさった。

 まるで、ろうそくの火が消えるように、フッと消えたアランたち。それをみて、長髪の男が眉をひそめる。

「時空を飛んだか……」

「あぁぁぁぁぁ、アラン様!! なんてことを!? 魔王様、いかがいたしましょう!?」

 すると、今度はその男の傍に、悪趣味なヘビの帽子を被った男が、あたふたとかけよってきた。

 魔王様──と呼ばれたその男は、その後、長いマントをひるがえすと、鋭く目を細め、また言葉をはなつ。

「慌てるな。アランは人間界だ。それに、門を破壊した上、時の魔法も使った。もう魔力も残っていまい。すぐに追いかけて連れ戻せ」

 そういった男──いや、魔王の声は、凍てつく氷のように冷たかった。

 だが、その瞳の色は、アランと同じ、アメジスト色の美しい色をしていた。