それは単純な理由だった。
不可解だったからだ。
他人をそんなに許してしまう、その無防備な姿がーー俺には理解できない。
弱みを見せてしまえば、攻撃されるというのが人間世界での理念だと、俺は叩き込まれたからこそ、疑問だった。
「他人を許せない心を持ち続けるってのは、自分自身に返ってくるんだよ。それは……痛みとしてね………そう僕は学んだしーーー悲惨な過去があったから……変わったんだ。だから、許すし戦わないし、人を助けたいって思う」
俺は呆れた。
どこかわからないけれど、吹き出した。
それは、やられたという笑みともとれるかもしれない。
なんだか、こいつには敵わない気がした。
どれだけ馬鹿にされたって、どれだけいじめられたとしても、コイツは雑草のように、この場所にいる気がしたから。
どうしてだろう。
あぁ、きっとそうなのかもしれない。
コイツは目の前にいる人間を、ちゃんと知ろうとしたからこそーーー信頼している人間ができたり、嫌なことがあってもブレない心、メンタルがタフなのかもしれない。
俺は、親友がどんどん落ちぶれている様子を見た時に、ちゃんと心情を理解しようとしたのか?
いや……俺は目の前のことに手一杯でその心を見抜こうとしなかった。
親友と呼べる人間に、どんどん違うステージに歩みを進められて、離れていくその寂しさを。
その心が分かっていたのなら、俺はーーーあの頃の過去は変わっていたのかもしれない。
きっと、それは中学のクラスメイトにだって言える。
俺は歩み寄ろうともせずに、ひたすら勉強ばかりして周りと話をしたのか?
勉強だって、教えてあげるぐらいの優しさを見せたのか?
答えはノーだった。
自分一人の世界に閉じこもって、人に傷つけられるのが怖がって、戦おうとしなかった。
それだけが、真実。
「だからーー校長先生!!僕は許すから、どうか……敬斗くんを退学にしようとしないで………お願い!!」
今俺の目の前に、そんな愚かな俺を理解して歩み寄ろうとしてくれている人がいる。
「校長……どうします?」
「そうだね……彼がそういうのなら……許してもーーー」
周りの意見に流される大人とは、コイツは違うのかもしれない。
普通だったら、俺の引かれるような過去を、多分コイツは知った上で関わってきてるんだろう。
ーーーこれは、歩み寄れと存在しない何かが諭してるんだろうか。
必死に地べたに土下座して、謝る有馬の斜め後ろ。
フワリと白猫のようなものが、見えた気がした。
きっと気の所為であってくれ。
でも……俺は、かけてみたい。
この出会いに。
「有馬」
俺は名指しで、呼ぶ。
ゆっくりと顔を上げた、有馬。
「俺は、お前にかけてみたい。いじめていたこと、認めるから。手を貸してくれないか?」
有馬は笑顔で、俺の手を取り「喜んで!!」と笑った。
「ちょっと……待ちたまえ!!この執行権を握っているのは、校長である私です!!異論は認めません!!検討させてください!!」
「そ……そうだ!!生徒指導の俺としても、そんなに容易く認められる問題じゃない。ここは停学としてーーー」
「その必要はねぇーよ」
不穏な空気を遮った。
振り返ると、そこに理央がいた。
ーーー何でアイツが………。
言葉に詰まっていると、理央は俺の目の前にやって来た。
「これ……有馬の仇ね」
パシンッーー!!!
鋭い痛みが、右頬を襲う。
だが、本気ではないことが分かった。
手加減しているのだ。
「確かに俺は、敬斗を裏切ってあの写真を校長の元に送った」
「理央くん………」
「だけど、あの煙草パーティーの主催をしていたのは、別にいたんだ」
「え?どうゆうことなんだい?理央くん?」
理央は、写真をポケットから取り出した。
そこに写っていたのは、紛れもない俺が写っていたのだがーーー。
「これって……僕をいじめた女の子!?クラスメイトの!?」


