何でアイツが………。



「有馬くん。何を言ってるんだい?この敬斗くんは、君のいじめの主犯格で、心を痛めつけた犯人なのだよ?どうしてそこまでかばうんだい?」



「敬斗くんは、確かに、僕に対して不本意ないじめをしてきたよ。だけどね、だからいじめをしていた人を切り捨てて、存在自体をなかったことにしようとするのは、僕は違うって思うから!!」



「そんな事を言ってもな………敬斗の様な人間は、そう簡単に変わらなくないか?生徒指導を長年やっている、俺が保証するよ。そんなに無理に、許さなくてもいいんだぞ?」




出たよ……俺は、何でもわかってますアピール。



後ろにいた、一軍女子はくすくす笑って、俺を見物にしてる。



こんな悪行を犯した仲間を、見抜けない久山に言われても、何の説得力もないというのに。




「だけど……人間っていう生き物は間違えて、強くなれる生き物だと思うから」




さざ波合う嘲笑う声は、いつしか静寂に変わる。




「人生っていうのは、思い通りにいかないことばかりで、理不尽なことや、悲しい事だって起きて、まともじゃいられなくなる時ってあるよね?だからこそ、人間は間違えたり、人を傷つけてしまう事も起こってしまう。でも、それを悲しませることや、不当な扱いを受けるということは、どうゆう事をなのかって理解するのが、人生ってものじゃないの?人間が、生涯を終えるってことは、そういう事を「学ぶ」っていうのも入ってるって僕、思うんだ……」




親友からの裏切りーークラスメイトからの
劣悪な暴言、暴力、そして嫉妬ーーー。




そのすべてから、逃げる為に、俺は「人をいじめて、支配する側」に逃げ込んだ。



でも………得ることはあったかと言えばーーー正直微妙だ。




「分かった口を聞くんじゃねぇーよ」




俺でも、信じられないくらい冴え冴えとした、低い、唸るような声が迸る。



それは、この世の全ての理解してくれない、人間達に唸るような、呪いをかけるようなおぞましい声だったかもしれない。


周りの先生達も、怯えた顔をしてーー身構えていた。



だけど、俺は止めることはできなかった。




「学ぶって、何をだよ!!みんな自分の事に手一杯で、学ぶ日もないくらいに、目まぐるしいく世の中は回ってる!!人を傷つけて、それでも何でもない顔をして行きている人間だって山ほどいる!!やられたら、やられっぱなしになるくらいなら、支配したほうが絶対にいいに決まってる!!だって、自分の事を守れるのは、自分しかいないじゃないか!!それなら……俺は弱い奴らを利用して、偽りの強さでも、自分を守れるのなら、いじめをしてしまってもいいに決まってる……」




数日前、俺の事をいじめた親友とすれ違った。



平日の昼間ーーバイト終わりの頃だった。



意地悪な店長に、怒られた後の悲劇だった。



その親友の隣には、類を見ない純粋な女子が、いたんだ。



その女の子は、親友にキスをしていた。



唇にーーだ。




親友は笑ってた。



彼女ができていたのだ。



「馬鹿馬鹿しい」



机を蹴る。



「こんな世界なら、俺は出ていく。何もしていない人間が、蔑まれる世界なら、俺は此処にいる義務はない。抵抗した努力が報われないのなら、そんな世界なのなら、死んだほうがマシだ。退学するよ。俺は」



1軍女子を睨み、扉を開け逃げようとする。




だけど、アイツは違った。




「でも……僕は、許すよ!!」





ーーー許す………。



俺は歩みを止めた。



「何でだ?お前は俺に、立ち直れないような傷をつけたんだぞ?」




「悪いと思っているからこそ、さっき声を荒げて怒ったんでしょ?……違う?」




異論はなかった。




「有馬、本当にいいのか?コイツを許して?」




「久山先生が決めることじゃないでしょ?いいんだよ。僕は………そこまで切羽詰まった人間を責める気持ちもないし、反撃するつもりはないから……」





「どうしてお前は……そこまで、他人を許せるんだ?」