「でも、私も彼の事知ってるのに、助けられませんでした」



「真央ちゃん……」



「私はずっと彼の事を、前々から敵対視してました。生徒会長の実権を握って学校の事を知ろうって魂胆で毎日噂をリサーチして………。彼の噂が出た時に、しめたと思ってそのまま放置。馬鹿みたいですよね……。それでも、私は「生徒会長」になれればいいとしか思っていなかったから……」




「真央ちゃんは、仕方ないよ。必死だったんだから……」




「そう……私は、生徒会長になる前は必死だった。だけど、その経験を経て今気づいたんです」



「……どうゆうことだ?」




「「人間は自分の事に、手一杯になると、他人の事を考えられなくなるのは、当たり前」だって事です。敬斗くんが、あんなに意地悪になっているのって、きっと自分の事にしか手が回らない状態なんですよ。きっと。それに、理央くんだって、同じだと思うんです。だからこそ、助けられなかった。そうだと私は思います。過去の過ちも、そう作られていくもんなんですよきっと。それは、誰も責められることじゃない。「必死に、藻掻いて苦しんで、それが結果になる」っていうのなら、私は仕方がなかったのかもって、思いますよ?」




仕方がなかった事ではないかもしれないけれど、僕はその答えも正解なのかもしれないってふと思った。



それはーーーなぜだか分からないけれど。



「僕……ちょっと行ってくる!!」




「どこに?」




「敬斗くんと話をしたいんだ!!」




僕はそう吐き捨てると、直ぐ様駆け出した。








「ーーーということだ。異論はないだろ」




「僕を見捨てるって事ですか?久山先生……」




でっぷりとした腹を、荒く凹ませたり引っ込めたり息が荒いこの久山。



俺の事情なんて、1ミリも分からないこのクソ教師に俺はまんまと嵌められてしまった気がして、休まらない。




まぁ、自業自得という言葉がお似合いなこの状況は、何処か滑稽で、自分ながら笑える。



どこで、人生を俺は間違えたのだろう。




今使っている言葉だって、半分嘘だ。




ぶっちゃけーーー。

「生徒指導の俺としては、匿ってやりたいとは思うが………校長があんまり良く思ってないし、本当は腹の底で反省してないだろ?」




長年、こういう問題児を扱い慣れており、観察力だけは長けている人間に、本性をやはり見破られてしまっていた。




「そんなことは……」


これも口から出た、錆なようなもんだ。



いじめに加担したことは、心の底から悪いことだとは俺は感じていない。



なぜなら、人は自分の身は自分で守るほどの支配力を持っていなければ、死ぬからーーーそれが俺の教訓であり、人生だったからだ。




「なら、お前が今回加担した、いじめの件はどうしてやったんだ?」




からかってやってきた、有馬いじめに加担した、あの一軍女子が手を振る。




アイツにはめられたのはいいとして、やはりこの久山は女子には甘い。




この女も共犯だと言うのに、俺だけが叱られているとなると、彼女は裏技を使って事を免れたんだろう。



「答えないというのは、本当だってことなんだね?煙草の件も?そうなんだね?」




表面ごとしか見ない、教師に俺は嘲笑う事しかできない。



表情には表さないが、俺は無感情で2人を見つめてため息を吐く。




「その態度が本当だというのなら、お前は俺の指導を受けてもーー治らないな。校長、いい加減退学に手っ取り早い所、済ませましょう」




「そうしたほうが、いいかもだね。じゃあ、悪いけど敬斗くん」



俺は死刑宣告を、今から受けるんだ。



だが、今はもうどうだっていい。




身を守る努力を報われない居場所なんて、俺の管轄化ではないし、いる意味だってないのだから。





「ちょっと、待って!!!」




けたたましい、走る足音が聞こえたや否。



「敬斗くんを、どうか……退学だけは辞めてください!!」


世界一、憎たらしい有馬がそこに立っていた。