「理央くんが裏切ったみたいなんです」


次の日の朝の時間。



数学の授業中に、そっと耳打ちされた。



居眠りを催している生徒の中、起きている生徒は二、三人しかいない。



当然喋り声なんて、聞こえているのであろうけど、数学の先生はそれでも無視していて。



「何で……裏切ったの?親友なのに?」




「さぁ。それは本人にきいてみないと、わからないですね。きっと何か考えることがあったんじゃないですか?」




チャイムが鳴る。



僕は急いで、理央くんがいる場所へ向う。



その場所に着くと、案の定人だかりができていた。



なんだか嫌な冷や汗が出てきた。




人混みをかき分けて、中心に立つ。




そこには、険しい顔で取っ組み合いをしていた理央くんと敬斗くんがそこにいた。



「ちょっと!!2人とも!!何してるの!!」




僕は急いで、2人の輪の中に入り引き離した。



2人はいがみ合いながら、息が荒い。



「理央くん、駄目だよ……喧嘩なんかしたら」



「うるせー。関係ねぇーだろ」



口についた血を拭って、済ました顔をした理央くん。




「それもそうだな。お前だって、有馬のいじめをみて見ぬふりした傍観者だから、責任を持つのが怖くて、俺の言葉に反応したんだろ?」




「俺は事実を校長に提出したまでだ。その後にお前は、俺を陥れるような虚言をクラスメイトに聞こえるように言いふらした」




「チッーーこしゃくめ……」




事の発端は、理央くんが校長に、敬斗くんが煙草を他校の不良達とコンビニで吸っていたところを証拠として写真に撮ったことからだった。



その後、校長に証拠写真を提出。



殴り合いが始まって、仲違いが起こったわけだけどーーー。




「理央くん!!ちょっと来て!!」



「そんな奴、二度と連れてくるな!!お前なんて親友でも何でもない!!」



「なんだと……、あの野郎!!」




「もういいから!!」




引っ張りに引っ張って、中庭まで人をかき分けてやってきた。




周りに人ごみはおらず、先生達が退散させてくれた。



「離せって!!」



鋭い力が僕を襲った。




思わず尻もちをつく。



「俺は……何も悪いことなんてしてない!!あいつが……お前のいじめを加担させて、お前のクラスのリーダーとグルだったんだよ!!そんな野蛮な事いいわねぇーだろ!!お前悔しくないのかよ!!」




「……文化祭に、公開処刑されたことの事を言ってるの?」




「そうだ!!あいつが前もって仕組んでいて、お前を悪者扱いして、潰そうとしてたんだよ!!俺が気付かないばっかりに……!!」




悔しそうに眉を下げて、壁を殴った理央くん。




「でも……だからって、復讐はよくないよ」




「これは俺自身のためにやったんだよ」




「俺自身のためって?」



「お前のいじめを黙認した罪とか、加担してしまった事とか」




「………そっか……許されたかったの?」




「許されたかったとか、そういうんじゃない。悪しき自分とケリを付けたかったんだ……悔しいし、そんな自分からサヨナラしたかったんだよ!!アイツといつも通りに接していると、自分じゃなくなるって思うと……怖くて!!」





その場にしゃがみ込んで、嗚咽が止まらなくなった理央くん。



「辛かったんだね……」



背中をできる限り、擦って少しでも軽くなればいいって願った。



「悪いと思っているのなら、君はちゃんと罪を償いきれてるってことなんだよ」




「……俺は、そうとは思わないっていうか、思えない」




「どうして?」




「罪は永遠に消えないって、思うから」



「でも、いつまでも罪に苦しめられる人はいないんだよ?知ってた?」




「どうしてそう言い切れるんだ?」




「全ての生き物は、死ぬからだよ。厳しい事を言うとね」





「俺は……ずっと償いきれるか、怖いんだ。お前を容赦なく傷をつけたから、また同じ過ちを繰り返さないか」



「その怖さがあるだけでも、成長してるんだよ。でもーーだからって、復讐はよくないよ……」




「そうでもしなければ、アイツは改心ししないと思うんだ……」



「きっと、理由があるのかもしれない」




「理由?」



「その理由を話してくれれば、敬斗くんは自由の身になれるかもしれない」



僕は理央くんに手を足し述べた。



「それを今から、見つけに行けばいいんだよ」