「俺が父さんが死んだ次の日に、弟の世話を任されたって張り切ってた俺に遥は本音を隠して離れる事が多かったんだ」



「……仲が悪かったの?」




「うーん、仲が悪かったってことはないんだが……どうしても年も離れているし、両親はよく小さかった弟をよりよく可愛がってたから、俺に対して気まずかったんだろう。気を使ってたんだと思う」



「遥くんは、その時から頭が良かったんだね」



「まぁ、俺とは違ってな」




爽やかに笑った瞬間、爽やかな風が吹く。



何処からか、ミントの香りがした時に気づいたのは、理央くんがつけていた香水の匂い。



「凄い……ミントの匂がする」




「これ、俺がつけてる香水。元々父さんのものなんだ」




「お父さん、どんな人だった?」




「昭和の頑固おやじ」




「大変だね」




「それでも、あの人なりに俺たちを愛してくれてた。遥のことも強い口調で怒ったこともあったけどーーー何とかここまで生きてこれたのは、父さんのおかげでもある」





何処か理央くんは悲しそうな顔をしてた。





そんな彼に掛ける言葉は、僕には見つけきれないけれど。




「でも、俺は別に愛されていないわけじゃなかったし、遥も幼かったから格差みたいな事があっても、仕方ないと思った」




「そっか……そんな事があったのに、全然気づいてあげられなくてごめん。複雑なのに足を踏み入れちゃったね………って、え?」



僕を優しく包みこんだ、理央くん。




「俺は、そんなお前が好きかもしれない」




「友達として……だよね?」




「……正直、わかんねぇ………」




ーーーど……どうしよう!?いきなりの展開すぎて!!



温かい彼の腕の中での時間は、それほどまで長くなかった。



「じゃあ、また後で、学校でな」



抱き合って十秒間だっただろうか。




直ぐ様笑顔で、校門前を通過していく理央くん。



って、ここ学校前だったの!?



凄いあらゆる、視線に耐えられなくなって息が詰まった。



僕は駆け足で、靴箱へ向うとーーそこに立っていたのは、真央ちゃんがいた。






「来るんですね……」




「なんか……駄目?」



「いや、だめってわけじゃないけれど、メンタル強靭っていうか………」



「図々しいよね……」



「本音言うと、かなり……」




初めて家族以外の人間で、人として扱ってくれていた唯一の真央ちゃんも若干引いている。



「でも……なんかちょっとだけ、安心しました」



「なんで?」



「こんな純粋なおバカで、優しくて、馬鹿真面目な人いませんから」



真央ちゃんは、僕の手を握る。



その手は暖かく、力強くて怖いくらい、優しかった。




「私のクラスで、昨日いじめにあったでしょう?」



「まぁ……あれは、でも僕がーーー」




「だからって、いじめをしていい理由にはなりません。って言うのはさておき、そのいじめが起きる前に、誰かに仕込まれて、酷い仕打ちを受けた可能性が、昨日から浮上しているんですよ。知ってました?」



「浮上って?」



「怪しいってことです」




「目星はついているの?」



「それがまだ………生徒会長のパイプを通しても、全然見つからなくて、犯人はよほどずる賢い人間みたいです」





「そっか……」



「力に……なります」



「え?」



「貴方は、悪い人じゃないし……力になりたいんです」



「……っというと?」



「犯人を捕まえるってことですよ」




「………そんな事しても、僕には性に合わないっていうか……」



「どうしてですか?」




「争い事は、よくないって思うんだよ。どんな状況でもね」




「でも、悪いことをしているって分からせるのって、悪いわけないでしょ!!」




「……そうなのかな?……僕よくわからないや……」




「とにかく、私はこの学校からいじめをなくすために、生徒会長になったんです。あきらめるわけにはいかないんですよ!!」




メラメラと燃える、瞳を覗き込むとこちら側がヤケドしそうでヒヤヒヤする。




「だから、貴方も手伝ってくださいね」



「えっと……何を?」




「どんくさいですねー。捜査に決まっているじゃないですか」




腕を引っ張られた。



「ちょっと!!どこに行くの!!」




「生徒会室です。資料に目を通してもらいますから!!一緒に!!」



「僕、ホームルームがあるのに!!単位取らないと、僕本当にヤバいから離してよー!!ちょっとーーー」




そうして僕らは、早速いじめの元凶の調査を始めることに。



だけど、そんな必要がなった事件が、数週間後起こることになるのだけど。