ドアの前に立った僕。


辛い記憶をかき消して、息を吸った。



ーー理央くんのことなんて知らない!!




ゆっくりとドアを引く。



扉が開かない……一体どうゆこと?




「それ、引き戸ですよ?」




爽やかで軽やかな、女の子の声が聞こえた。



僕が息をするまでもなく、扉の前に立ちドアをスライドさせる。



「そうゆうことだったんだ……」




「何してるんですか?早く入ったらどうです?」



前を向くと、メガネをかけていて黒髪がよく似合う女の子がいた。



賢そうな見た目であるせいか、表情が硬い。



というよりも、周りの生徒の目線がより一層怖いと言うか………。




髪色は多種多様な色味が多くて、萎縮してしまいそうなほど眼光が鋭いのは、不良と呼ばれると現地の図書館に書いてあった。



「座ったらどうですか?」



荷物をガツンと落として、勉学を始める様子を見せる矢先に、メガネの少女は僕を睨む。




「………怒ってる?」




「少し……そうかも知れないですね」




「ど……どうしてさ!?ぼ……僕何かした!?っていうか、君と会ったことあるっけ?」



さっきまで、クラスメイトの視線を逸らすことができたと思ったのに、僕の発言によってさらに注意が向く。



蛇に睨まれた蛙って、こんな気持ちになるのかというくらい、心臓に悪い。




「貴方の噂は、学校中で有名ですから、私は知ってるんです」




「………有名ってあの、理央くんだから?」



「それ以外に、理由ありますか?女子生徒からも、男子生徒からも人気で学校の王子的立ち位置ですからね」




「学級委員長さんは、理央の事が好きなんだもんな!!」




このクラスメイトの誰かの冷やかしが飛び出して、嘲笑うさざなみの声が聞こえた。



「うるさい!!静かに!!」




クラスメイトはまた、呆れた乾いた笑いを浮かべまたそれぞれ、個人の会話に戻ってゆく。



「私は、あなたのが理央の隣にいるのが許せない。単純に恋敵ということもあるけれど……何の努力もしていないあなたになんかにーーなりたくないし、同じ空気を吸いたくないので」



「そんな事言われても………」



あまりの辛辣な言葉に、嗚咽が出て涙があふれそうに。



だけど、ここで負けては今までやってきたことがパーになる。



理央くんのことは、今は許せないけれど、せめても言ったことには筋を通さないと………。



「僕、それでも君とちゃんと向き合うって決めた」



「へ?」



「だって、理央くんの事を応援したいって思っている気持ちや根本は一緒でしょ?どっちが先に理央くんを取るかは分からないけれど……一緒に頑張ろうよ!!」




あまりに突拍子のない話に、皆また耳を傾けた。




「貴方、本気なの?今の時代にそぐわないと思うけれどーー男じゃない………叶うわけないわ……!!理央くんが元々、男好きなんてきいたことないし……」




周りの生徒たちからの、引き笑いや噂ーーそして偏見を詰め込んだ視線を全部跳ね返す。




「僕は理央くんと喧嘩して、許せないところもあるけれど……それでも彼の隣にいたいって思うのは、罪ではないからいいでしょ?」




その翌日あだ名が「ホモ野郎」という名前になってしまったのは言うまでもない。