あいつは早々とスーパーに向かった。



「あの調子だったら、今日は早めに帰ってくるかもねー」



呑気にコーヒーを飲んでいる母さん。



「仕事は?」




「そうね……出たほうがいいかも」



軽やかに母さんを出向いたあとだった。



「兄ちゃん……」



遥が目をこすりながら、俺に話しかけてきた。



「早く着替えたらどうだ?」




「まだ、5時だよ?」



「朝の時間は早いからな。早めに支度して、ゆっくりしていったらいい」



そう遥に告げて、落ち着きを取り戻させる。




「どうしてなの?」




「急になんだよ?」



皿洗いの手を止める。



流れる水の音が、俺の鼓膜をザラザラと刺激させる。



「どうして、有馬お兄ちゃんを敵視してたくせに今更一緒の高校に行こうなんていい出したの?」



単刀直入に言えば、あの月影敬斗の策略といえばいいかもしれない。



ーーー「あいつを俺達の学校に引きずり出して、世間というものを知らせて、精力を奪えばいい」



そんな告げ口を、俺が飲み込んだ故の計画だった。



「世間知らずなアイツを成長させてやりたいって、思ったからに決まってんだろ?」



これは嘘だ。



そんな事、1ミリだって思ってない。



本音を言えば、早く遥から離れてほしいが故に別のことに気をそらせようという魂胆だ。


「……嘘つき!!」



ボソリとつぶやいた遥。



流れ出た水を受け止めていた、水が溢れ出した。




シンクのそこに落ちて、排水溝の底にドバドバと零れ落ちるその音は、俺を心の底から怒らせるような轟々しい音をしていて。



「嘘つきってどうゆうことだよ?」



凄まじい轟々たる念を、遥に向け振り返る。




遥もそれを感じたのか、一瞬獲物のようなすがる目をしたが、貫くような眼光を俺に向けた。



「お兄ちゃんは……そんな直ぐに人を信じるような奴じゃない……。せいぜい1年ぐらいかけないと、心の底を見せようなんてしないくせに」



弟の言っていることは、ご尤も。



「人を好きになるってのは、それぞれ人によるだろ?今回はそれが早かっただけだ」



「僕と、月影さんの事を知らないと思ってるの?」



突拍子もない単語に、俺は直ぐ様口をつぐむ。



「ーーなんで月影の事知ってるんだよ?」



「漣くんから、よく聞くんだよ。裏社会を牛耳ってる偉そうな輩ってことをね。有名なんだよ。悪行についてはね」



言葉が出なかった。



図星を突かれたというか、すべて実は先回りして離されているという恐怖のような感情に近いかもしれない。



「今回の早すぎる友情の件と……月影さんとよく今年つるんでいる姿を見てーー僕が勘付かないとでも思ってるの?」



「「何がいいたいんだよ。俺はただーー」有馬兄ちゃんを、カースト制度で踏み潰そうとしてない!!そんなの僕耐えられないからね!!」