「君は……自分がおかしいと思わないの?」



やっと苦し紛れにそう答えが出た。



周りの皆がどよめく中、漣くんと取り巻きは高らかに笑う。



それは耳をつんざくような、高らかな声で。



「お前弱いくせに、何ほざいてんの?今遥と対面してんだけど?」



くるくると刃先を回して、刃先を遥くんに向ける。



遥くんは少しどもった声で、「もういいよ……有馬兄さん……」と弱々しく泣き言を放つ。



「こんなに凄い遥くんを虐めるなんて……気が気でなよ!!そんなに痛めつけたいのなら……僕からやって!!」




「はぁ……?お前何言ってーーー」




僕は次の瞬間、駆け出して刃物を持っている手を最大限の握力で握り、背負い投げた。



漣くんは宙を舞って、目を覚ました時には数メートル先の草むらに刃物を投げ捨てていた事に気付く。



周りは息を呑んだかと思えば、パラパラと拍手が溢れる。



「ーーって!!てめぇー!!何しやがる!!」



拍手も束の間、再戦の合図がなった。




僕は右脇腹に思い切り、頭突きを入れられてバランスを崩しその反動で足に顔面に蹴りを入れられる。



ありえないと思ったが、魔力不足のせいか反撃不可能だった。


「殺す!!殺す!!」




羽交い締めにされ、完全に呼吸ができなくなるほど力を入れられて身動きができなくなる。




ーー死ぬかもしれない。



そう頭をかすめた時だった。




「やめてぇええーー!!!!」



前を見ると、赤い傷だらけになった遥くんが仁王立ちをして刃物を持っていた。




周りには青い痣だらけになった、漣くんの仲間達が大勢いた。



それもおののくように、顔を引き攣らせながら。



その原因はナイフを片手に持っているからだろう。



「お前、それで俺に勝てるとでも思ってんの?」



不敵な笑みを浮かべる漣くん。



「思わない……ナイフを持ってしてでも、君に負けるとは思う」



ナイフを捨て川元に波紋を作った。




「でも……僕を助けてくれた人に………手出しをさせたくない」



「なら、お前が川に飛び込んだら許してやるよ」



怯んだような顔をした遥くん。


だけども、その顔は前みたいに怖がっている顔ではなくてーーー。



「分かった。そうしたら有馬兄さんを解放してくれる?」




「あぁ、してやるさ。さっさと飛び降りろ!!」




遥くんは処刑台へと足を進める。



あんな高いところから降りたらひとたまりもないだろう。




僕は必死になって、身体を動かすも微動だにしない。





ーー僕の為に、自分を犠牲にしなくなってーーー。



「遥くん!!やめてよ!!」




そんな苦しげな苦言は宙に舞う。