甲高い耳鳴りが、僕の耳をつんざく。
咄嗟に体を横に傾け、振り返ると家の壁がない。
外にそびえるのは、空中に浮かぶ夜空の星達と白い羽をはやしたハート型の光の妖精達。
人間界に影響された、雑草と生い茂る高層ビルがはっきりと見える。
鍵の中でも五感は感じられるみたいで、冬の時期特有の体温を奪ってくる冷気が僕を包む。
片手で握れる短剣でありながらも、ひとなぎするだけで壁の外壁を切り捨てられる威力を持つその剣に鳥肌が立ってきた。
切られた外壁の切り口を見ると、マグマのように赤く光ってた。
しかも少し、溶けてる。
「ごめんなさい……っ!!上級天使様ッ!!でも………どうしても……っどうしてもっ、あの人の子供が欲しかったんです!!」
お母さんが声を張り上げた。
こんな必死な、お母さんを今まで僕は見たことがない。
「この独特な霊気ーーーお前達、この子供を授かった時、人間界にいただろう?」
お母さんとお父さんは、ピタリと静止した。
それを何を意味しているのか、僕は数秒で何かわかってしまった。
ーーお父さんとお母さんが下界に住もうとしないのは……僕のためだったりするんじゃないかな……?
悪魔に復讐されるのが怖いだったり、人間達に変な探りを入れられるのが怖いという単純な理由だけじゃない。
一番怖いのは、その全ての「悪者」と呼ばれる存在が「僕」に対して危害を加える事を恐れているんじゃないかって………。
ずっと百年間、気づかずに能天気に僕は生きてきた。


