「来ないと思ってた」
「……ごめん」



 目を、そらしていて。


 最後まで言わなかったのに、彼女は気まずげに視線をそらした。




 流れる沈黙。
 二人きりの、病室。


 まさかこんな形でまた二人きりになるとは、想像していなかった。


 いや、心のどこかでは、していた、のかもしれない。
 


 だから、今日までここに、この病室に、足を向けることができなかった。





「何しに、来たの」





 どこか突き放すような声が、空気を切り裂く。




 引っ越すと告げられたあの日。

 晴音の両親から、なんとか事情を聞き出したあの日。



 もう、長くはないと、知ってしまったあの日。




 僕は、ただただ恐ろしかった。





「晴音の“ありがとう”が、聴きたい」





 もう一度(・・・・)大切な誰かを(・・・・・・)失ってしまう(・・・・・・)ことが。





「ここに来れなかったこと、少し、言い訳させて」
「……は、」



 晴音のかわいた声が、広い病室によく響いた。



************************************************