笑ってしまうほど、僕らは対照的だった。

 しいて言うならば、好きな音楽が一緒だったこと、ぐらいだろうか。







「なーにしてんの、私のカレシくん」


 目の前で手を大げさなくらいに振られて、右耳のイヤホンを抜く。



「……なんか言った?」
「何聴いてんだろーなって」



 春風にたなびくカーテンの間から、彼女がひょっこり顔を出して、にっ、と笑った。


 左耳に絶えず流れている音楽に勇気づけられて、僕は手を差し出す。



「聴く?」



 一拍の沈黙後、彼女は僕の手からRとかかれたイヤホンを受け取った。



 耳に付けたことを確認して、僕は音楽を巻き戻し、再生する。



 誰もいない教室で、無言のまま、三分九秒が過ぎる。





「……これ、私がよく聴くやつ」




 ぽつりと、彼女がつぶやいた。


 心の声が、漏れたようだった。
 本当に、本当の声(・・・・)だと、そう思った。




 そう僕に錯覚させたのは、一滴の、水滴だった。





「ねえ、私のカレシくん」





 彼女が、笑う。

 いつものように。



 ……いつもの、ように。




「協力、してほしいって私、言ったじゃない?」




 僕は何も言わずに、ただ、うなずいた。



 似合わない。
 創られた、歪んだ表情。






「私さ。寿命、あと1年分しか残ってないんだ」






 彼女の声が、聴き慣れた音楽と混じってきこえた。