うちのお母さんは、ふだんは何も言わないけど、わたしが勉強を少しでもサボっているのをにおわせると、こんなふうにすぐ目くじらをたてるんだ。

「あっ、えーっとね、一学期の最初の方でやったところだから、忘れちゃってて……」

「忘れた、ですって?」

 ギクッ。

「じゃ、じゃあ、樹くんが待ってるからっ。いってきまーす!」

 わたしはジリジリと後ずさりをしたあと、ピューッと逃げだした。

 マンションの通路に出て、ふう、とひと息をついた。

 はあー、焦った。樹くんと楓くんのためとはいえ、いいわけを見つけるのは大変だよ。

 こんな生活、いったい、いつまで続くんだろう……?

 そう考えた瞬間、急にこわくなった。

 もし戻らなかったら?

 永久にこのまま?

 樹くんは楓くんで、楓くんは樹くんとして生きていかないといけないの?