楓くんの姿になっても、樹くんはやさしい。
「樹くん、ありがとう」
「理子、そういうおまえもだからな!」
楓くんがフンと鼻先で笑った。
「おれたちの名前、学校でまちがえてよぶなよ」
「うん、それだけはまちがえないようにがんばる! あと、ほかに何かある?」
「あと? あとは――いや、なんでもねー」
楓くんは、めずらしく口ごもった。ごまかすようにパッとからだの向きを変えて、「行くぞ!」とエレベーターの方へと行きかける。
「あっ、待って!」
わたしは楓くんのうでをハシッとつかまえた。
「なんだよっ」
「だって、わたしといっしょに歩いてくれないと!」
「そのくらい、ちがってたっていいだろ」
「でも、できるだけ事故の前といっしょのほうが……」
「理子の言うとおりだよ。今の楓は僕だよ。僕が先に立って歩くのはおかしいだろ」
