相手も強者らしく、楓くんが怒っても少しも動揺していないんだ。
返って、よろこばせちゃった感じがする……。
すると、楓くんのこめかみがピクピク動くのが見えた。
「あのなあ! おれは怒ってんだぞっ!!」
ライオンのようにガオッと吠えた瞬間、女の子たちは「キャー!」とクモの子を散らすように駆けだした。
そのあまりの素早さに、あっけにとられたわたしたち。
しばらくポカンとしていたけれど、ハッと気づいて、楓くんのもとへ飛んでいった。
「楓、やりすぎだって」
いきりたった楓くんの肩をつかみながら、樹くんが言った。
「そうだよ、楓くん。楓くんの印象がわるくなっちゃうよ」
「やりすぎなもんか! 先にちょっかいをかけてきたのは向こうだ。これでもガマンしたほうだぞ、おれは」
わたしたちにそう言ったあと、楓くんはつまらなさそうに首を制服の襟の中にすくめた。
「おれは、あーいうのが嫌いなんだ。言いたいことがあるならコソコソやってないで、どうどうと言えってんだ」
楓くん……。
らんぼうな口調だけど、わたしをかばってくれたんだ。
「ありがとう、楓くん」
わたしがお礼を言ったら。
楓くんはちょっと照れたように短い息をはいて、
「べ、べつにっ」
プイッと顔をそむけた。それから、
「あーあ、怒ったらハラへったぜー」
おなかの辺りをさすりながら、情けない声をだす。
